胃ろうをつくるということ
2025年4月5日
外科 小出 綾希
あるとき主治医から『胃ろうをつくるかどうか、なるべく早くご家族で決めてください。』と言われてしまったとします。皆さんがご家族ならば、どうしますか?
最近ではご存じの方も多いと思いますが、胃ろうとはお腹の皮膚から胃に通じる鉛筆の太さほどの短絡通路です。50年ほど前までは『食べられなくなったら人間は終わり』という考えが普通でしたが、今では『口から食事を摂る代わりに胃ろうから栄養剤を注入する』といった選択肢が用意されるようになりました。
現在、我が国で胃ろうがある患者さんは約26万人と推計されています。施設における胃ろう造設者の割合は特別養護老人ホームが9%、介護老人保健施設が7%、療養型病床が28%です。意外に施設で見ている胃ろう患者さんの割合は少ないです。国は看護職員(看護師・准看護師・保健師・助産師)しか胃ろうへの栄養剤の滴下ができないと指導していますが、介護施設では看護職員が少ないため胃ろう患者さんの受入数に限界がでてきます。
ところが胃ろう患者さんのご家族は簡単な指導を受ければ滴下ができます。様々な理由で施設に入所しない、もしくはできない胃ろう患者さんは自宅でご家族が介護しているのです。安易に胃ろうを導入しても療養してもらえる施設の枠は限られているため、ご家族に重い介護負担を負わせることがあります。
海外では胃ろう造設はほとんど行われていません。以前の日本での考え方と同じく、口から食べられなくなることは生命体として限界を迎えていると考えているからです。胃ろう患者さんが栄養剤で延命されている姿は、海外から『高齢者への虐待』と称されることがあります。
最近では、脳血管障害後遺症で経口摂取がうまくできずに誤嚥性肺炎を繰り返す60~70代の患者さんに胃ろうをつくりました。栄養を補給しつつ口から食べるためのリハビリを頑張っていただいた結果、胃ろうを使わなくても口から食べられるようになりました。ですが先述した高齢者への胃ろう造設とは多くの観点で条件の違いがあるのです。
いかがですか、もしご自分やご家族が胃ろうをつくるかどうか問われたとき、どのようにするかを今のうちからじっくり考えてみることも大切なのです。
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